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東京地方裁判所 昭和60年(特わ)312号 判決 1987年2月20日

本籍

東京都大田区西糀谷三丁目六一〇番地

住居

東京都大田区山王一丁目四三番一〇号

アンジュ荻野三〇五

医師

八木昭二

昭和二年六月二六日生

右の者に対する所得税法違反、詐欺被告事件につき、当裁判所は、検察官江川功出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人を懲役四年及び罰金一億円に処する。

二  未決勾留日数中九〇日を右懲役刑に算入する。

三  被告人においてその罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

四  訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一  東京都大田区萩中三丁目二九番五号において「三和病院」本院(昭和五九年一一月一八日以降「萩中南病院」)及び神奈川県横浜市戸塚区和泉町三六二七番地において「三和病院」分院(昭和五九年一一月一日以降「中和田病院」)の各名称で病院を開設して医業を営んでいたものであるが、顧問税理士であった分離前相被告人大濱美代志(以下単に「大濱美代志」という。)及び右三和病院に医薬品を納入していたエーダイ薬品株式会社の代表取締役である分離前相被告人長崎雅彦(以下単に「長崎雅彦」という。)と共謀の上、被告人の所得税を免れようと企て、医薬品の売上を除外し、架空の医薬品仕入及び接待交際費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

一  昭和五六年分の被告人の実際総所得金額が四億五五三一万九二二円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五七年三月九日、東京都大田区蒲田本町二丁目一番二二号所在の所轄蒲田税務署において、同税務署長に対し、同五六年分の総所得金額が二億八五八五万四七〇六円でこれに対する所得税額が一億七〇一三万六九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和六〇年押第四八一号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告人の同年分の正規の所得税額二億九七二二万八九〇〇円と右申告税額との差額一億二七〇九万二〇〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ

二  昭和五七年分の被告人の実際総所得金額が六億七二一一万五六八六円あった(別紙(二)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五八年三月一四日、前記蒲田税務署において、同税務署長に対し、同五七年分の総所得金額が三億四七〇〇万七八八〇円でこれに対する所得税額が二億九二二万二三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和六〇年押第四八一号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告人の同年分の正規の所得税額四億五三〇五万三三〇〇円と右申告税額との差額二億四三八三万一〇〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ

第二  各種医療保険の保険医として、これらの保険医療期間等である前記各病院を経営していたものであるが、診療報酬を水増請求して、医療保険の診療報酬支払機関等から金員を騙取しようと企て、

一  別紙(五)一覧表(一)記載のとおり、昭和五八年三月九日ころから同年九月九日ころまでの間、前後七回にわたり、東京都新宿区四谷三丁目三番一号所在の東京都国民健康保険団体連合会事務所において、同連合会に対し、同年二月分から同年八月分までの前記「三和病院」本院の診療報酬を請求するに際し、入院患者分の注射料金合計一億一一三五万八七六〇円を水増し計上した内容虚偽の診療報酬明細書及び診療報酬請求書をあたかも真実その記載どおりの注射薬を患者らに使用したかのように装って提出して診療報酬を請求し、同連合会診療報酬審査委員会らをして、右診療報酬明細記載のとおり注射薬を使用したものと誤信させ、よって、同連合会支出権限者をして、同年四月二五日ころから同年一〇月二五日ころまでの間、前後七回にわたり、診療報酬支払名下に合計一億一〇一六万二一二〇円を、同都品川区北品川三丁目七番二五号所在の株式会社三菱銀行品川支店を経由して、同都大田区羽田四丁目二〇番一〇号所在の東京産業信用金庫穴守支店の被告人名義の普通預金口座に振込み入金させ、もってこれを騙取し

二  別紙(五)一覧表(二)記載のとおり、昭和五八年三月一〇日ころから同年九月九日ころまでの間、前後七回にわたり、前記東京都国民健康保険団体連合会事務所において、同連合会に対し、同年二月分から同年八月分までの前記「三和病院」分院の診療報酬を請求するに際し、入院患者分の注射料金合計七二四一万二五〇〇円を水増し計上した内容虚偽の診療報酬明細書及び診療報酬請求書を前同様に装って提出して診療報酬を請求し、同連合会診療報酬審査委員会らをしてその旨誤信させ、よって、同連合会支出権限者をして、同年四月二五日ころから同年一〇月二五日ころまでの間、前後七回にわたり、診療報酬支払名下に合計七二二八万五八一七円を、前記三菱銀行品川支店を経由して、前記東京産業信用金庫穴守支店の被告人が管理する高野章名義の普通預金口座に振込み入金させ、もってこれを騙取し

三  別紙(五)一覧表(三)記載のとおり、昭和五八年三月一〇日ころから同年九月一〇日ころまでの間、前後七回にわたり、神奈川県横浜市神奈川区青木町九番一号所在の神奈川県国民健康保険団体連合会事務所において、同連合会に対し、同年二月分から同年八月分までの前記「三和病院」本院の診療報酬を請求するに際し、入院患者分の注射料金合計二三九六万五二八〇円を水増し計上した内容虚偽の診療報酬明細書及び診療報酬請求書を前同様に装って提出して診療報酬を請求し、同連合会診療報酬審査委員会らをしてその旨誤信させ、よって、同連合会支出権限者をして、同年五月二日ころから同年一〇月三一日ころまでの間、前後七回にわたり、診療報酬支払名下に合計二三九五万九二二〇円を、前記三菱銀行品川支店を経由して、前記東京産業信用金庫穴守支店の被告人名義の普通預金口座に振込み入金させ、もってこれを騙取し

四  別紙(五)一覧表(四)記載のとおり、昭和五八年三月八日ころから同年九月一〇日ころまでの間、前後七回にわたり、前記神奈川県国民健康保険団体連合会事務所において、同連合会に対し、同年二月分から同年八月分までの前記「三和病院」分院の診療報酬を請求するに際し、入院患者分の注射料金合計三二七四万九一四〇円を水増し計上した内容虚偽の診療報酬明細書及び診療報酬請求書を前同様に装って提出して診療報酬を請求し、同連合会診療報酬審査委員会らをしてその旨誤信させ、よって、同連合会支出権限者をして、同年四月一五日ころから同年一〇月二五日ころまでの間、前後一四回にわたり、診療報酬支払名下に合計二七一四万九四二〇円を、前記三菱銀行品川支店を経由して、前記東京産業信用金庫穴守支店の前記高野章名義の普通預金口座に振込み入金させ、もってこれを騙取し

五  別紙(五)一覧表(五)記載のとおり、昭和五八年三月九日ころから同年九月九日ころまでの間、前後七回にわたり、東京都豊島区南池袋二丁目二八番一〇号所在の東京都社会保険診療報酬支払基金事務所において、同支払基金に対し、同年二月分から同年八月分までの前記「三和病院」本院の診療報酬を請求するに際し、入院患者分の注射料金合計六七九七万九四〇〇円を水増し計上した内容虚偽の診療報酬明細書及び診療報酬請求書を前同様に装って提出して診療報酬を請求し、同基金診療報酬審査委員会らをしてその旨誤信させ、よって、同基金支出権限者をして、同年三月三一日ころから同年一〇月二一日ころまでの間、前後一四回にわたり、診療報酬支払名下に合計五五七二万五三三〇円を、前記三菱銀行品川支店を経由して、前記東京産業信用金庫穴守支店の被告人名義の普通預金口座に振込み入金させ、もってこれを騙取し

六  別紙(五)一覧表(六)記載のとおり、昭和五八年三月八日ころから同年九月八日ころまでの間、前後七回にわたり、神奈川県横浜市中区山下町三四番地所在の神奈川県社会保険診療報酬支払基金事務所において、同支払基金に対し、同年二月分から同年八月分までの前記「三和病院」分院の診療報酬を請求するに際し、入院患者分の注射料金合計八二二五万四四一〇円を水増し計上した内容虚偽の診療報酬明細書及び診療報酬請求書を前同様に装って提出して診療報酬を請求し、同基金診療報酬審査委員会らをしてその旨誤信させ、よって、同基金支出権限者をして、同年四月一八日ころから同年一〇月一七日ころまでの間、前後七回にわたり、診療報酬支払名下に合計五三四五万八七〇〇円を、前記三菱銀行品川支店を経由して、前記東京産業信用金庫穴守支店の前記高野章名義の普通預金口座に振込み入金させ、もってこれを騙取し

七  別紙(五)一覧表(七)記載のとおり、昭和五八年三月上旬から同年八月上旬までの間、前後五回にわたり、東京都千代田区丸の内一丁目六番五号所在の国鉄共済組合東京北支部事務所において、同支部に対し、同年二月分及び同年四月分から同年七月分までの前記「三和病院」本院の診療報酬を請求するに際し、入院患者分の注射料金合計一九二万二五四〇円を水増し計上した内容虚偽の診療報酬明細書及び診療報酬請求書を前同様に装って提出して診療報酬を請求し、同組合診療報酬審査委員会らをしてその旨誤信させ、よって、同支部支出権限者をして、同年四月六日ころから同年九月一日ころまでの間、前後五回にわたり、診療報酬支払名下に合計一九二万二五四〇円を前記東京産業信用金庫穴守支店の被告人名義の普通預金口座に振込み入金させ、もってこれを騙取し

八  別紙(五)一覧表(八)記載のとおり、昭和五八年三月上旬から同年八月上旬までの間、前後四回にわたり、前記国鉄共済組合東京北支部事務所において、同支部に対し、同年二月分及び同年五月分から同年七月分までの前記「三和病院」分院の診療報酬を請求するに際し、入院患者分の注射料金合計一〇七万二八〇〇円を水増し計上した内容虚偽の診療報酬明細書及び診療報酬請求書を前同様に装って提出して診療報酬を請求し、同組合診療報酬審査委員会らをしてその旨誤信させ、よって、同支部支出権限者をして、同年四月五日ころから同年八月三一日ころまでの間、前後四回にわたり、診療報酬支払名下に合計一〇七万二八〇〇円を、前記三菱銀行品川支店を経由して、前記東京産業信用金庫穴守支店の前記高野章名義の普通預金口座に振込み入金させ、もってこれを騙取したものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実つき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する昭和六〇年一月三〇日付、同年二月五日付、同年一二日付(一五丁)、同月一五日付及び同月一八日付(九丁)各供述調書

判示第一の各事実つき

一  被告人(証人八木昭二)に対する当裁判所の証人尋問調書

一  被告人の検察官に対する昭和六〇年二月四日付、同月六日付、同月八日付、同月一一日付、同月一二日付(五丁)、同月一四日付、同月一六日付、同月一七日付及び同月一八日付(二通、一二丁及び本文四丁)検察官に対する各供述調書謄本

一  被告人の収税官吏に対する質問てん末書二通

一  分離前の相被告人大濱美代志及び同長崎雅彦の当公判廷における各供述

一  鷲田操(昭和六〇年二月四日付、同月八日付、同月九日付、同月一一日付、同月一三日付、同月一六日付、同月一八日付、同月一九日付二通)、小堤幹夫(昭和六〇年二月五日付)、姫田克己(昭和六〇年二月一日付、同月九日付二通)、米山三郎(昭和六〇年二月一〇日付)、古山浩子、栗林路子、鷲田孝男、井上正敏(三通)、土屋文志(昭和六〇年一月三一日付)、神山光男、都甲進、吉澤健二、長崎好美、宮沢正文、五島潔、松原和久、大浜永俊、長沢絋一、和田英理、倉根修二、西恵吾、佐々木明朗、山口武夫、菅田一郎、原田康男、柿澤とく子、久保祐一郎、佐藤迪彦、山田寿子、関口京子、細田弘、水野猛、首藤潔、格和信夫(昭和六〇年二月二日付)、岡本輝通、石塚真一、川村隆治、神田佐七、米山弘之、高野章(昭和六〇年二月一一日付)、板倉龍三(昭和六〇年二月一一日付)、今村みつ子(昭和六〇年二月四日付、同月九日付)、田中正司(八通)、泉俊光、長崎雅彦(昭和六〇年一月三〇日付、同年二月六日付、同月一〇日付、同月一二日付、同月一七日付)、大濱美代志(九通)の検察官に対する各供述調書謄本

一  鷲田操(昭和六〇年二月一四日付)、小堤幹夫(昭和六〇年二月一一日付)、長崎雅彦(昭和六〇年二月一八日付)、藤本幸男、米山美佐子(昭和六〇年二月一日付、同月五日付)、山内正子、平松美津子、平野豊美江、八木マサ、堂前和信、安田彰、辻政男及び高橋貞子の検察官に対する各供述調書

一  藤原勝次郎の収税官吏に対する質問てん末書

一  村山武雄作成の申述書

一  収税官吏作成の次の各調査書謄本

1  仕入調査書

2  給料賃金調査書

3  雑所得調査書

4  貸倒引当金繰戻額調査書

5  価格変動準備金繰戻額調査書

6  貸倒引当金繰入額調査書

7  価格変動準備金繰入額調査書

8  青色申告控除額調査書

9  架空仕入額調査書

10  雑収入(リベート)調査書

11  接待交際費公表計上の状況調査書

12  接待交際費調査書

一  収税官吏作成の査察官報告書三通(昭和六〇年二月七日付、同月一三日付謄本及び同月一五日付謄本)

一  東京地方検察庁特別捜査部検事作成の昭和六〇年二月一八日付(二通)、同月一三日付及び同年四月一二日付各捜査報告書(昭和六〇年四月一二日付以外は謄本)

一  蒲田税務署長作成の証明書

判示第一の一の事実につき

一  押収してある所得税確定申告書(五六年分)一袋(昭和六〇年押第四八一号の1)及び五六年分所得税青色申告決算書等一袋(同押号の2)

判示第一の二の事実につき

一  佐川久勝の検察官に対する供述調書謄本

一  押収してある所得税確定申告書(五七年分)一袋(昭和六〇年押第四八一号の3)及び五七年分所得税青色申告決算書等一袋(同押号の4)

判示第二の各事実につき

一  被告人の検察官に対する昭和六〇年三月八日付、同月九日付、同月一八日付(二通)、同月七日付(一〇丁)、同月四日付及び同月二〇日付各供述調書

一  証人渡辺幸恵の当公判廷における供述

一  成島一雄(三通、判示第二の一、二の各事実につき)、山崎茂(二通、判示第二の三、四の各事実につき)渡辺祐作(二通、判示第二の五の各事実につき)、大内秀美(判示第二の五の各事実につき)、星晴雄(二通、判示第二の六の各事実につき)、小島悟(判示第二の七、八の各事実につき)、安彦修作、鷲田操(昭和六〇年三月二三日付)、成田怜、宮本久、小堤幹夫(昭和六〇年二月一七日付、同月二一日付、同年三月一九日付、同月一七日付、同月二一日付<一八丁>、同年二月一五日付)、格和信夫(昭和六〇年二月二〇日付)、土屋文志(昭和六〇年二月四日付)、今村みつ子(昭和六〇年二月一八日付、同年三月一九日付)、米山美佐子(昭和六〇年三月二一日付)、渡辺幸恵(昭和六〇年二月一二日付、同年三月二二日付<一四丁>、同年二月一九日付)、高野章(昭和六〇年三月六日付)及び板倉龍三(昭和六〇年三月二三日付)の検察官に対する各供述調書

一  東京地方検察庁特別捜査部検事ら共同作成の昭和六〇年三月二三日付捜査報告書

一  東京地方検察庁特別捜査部検事作成の昭和六〇年三月一二日付(判示第二の一、二、五の各事実につき)及び同月二一日付(判示第二の三、四、六の各事実につき)各捜査報告書判示第二の一、三、五、七の各事実につき

一  被告人作成の昭和六〇年三月一六日付(三通)、同月一一日付及び同月四日付各上申書

一  国広勝敏、小堤幹夫(昭和六〇年三月一六日付)、今村みつ子(昭和六〇年三月七日付、同月二〇日付)、渡辺幸恵(昭和六〇年二月一八日付、同月二〇日付、同年三月一五日付、同月四日付、同月一四日付、同月一六日付、同月二一日付)、平林静、堂本信子、紺野真佐子、増子如代、横山英美(二通)、渡辺純子及び武照子の検察官に対する各供述調書

一  押収してあるカルテ綴九四綴(昭和六〇年押第四八一号の122ないし215)、指示簿綴六袋(同押号の216ないし221)

判示第二の二、四、六、八の各事実につき

一  被告人の検察官に対する昭和六〇年三月一九日付供述調書

一  被告人作成の昭和六〇年三月一八日付(七通)及び同月一九日付各上申書

一  小堤幹夫(昭和六〇年三月二一日付<四丁>)、米山三郎(昭和六〇年三月一五日付、同月二二日付)、姫田克己(昭和六〇年三月一八日付、同月二三日付)、今村みつ子(昭和六〇年三月二二日付)、渡辺幸恵(昭和六〇年三月二〇日付、同月二二日付<六七丁>)、山田シズ及び北島妙子の検察官に対する各供述調書

一  押収してあるカルテ綴一一七綴(昭和六〇年押第四八一号の5ないし121)

(争点に対する判断)

一  接待交際費について

被告人は、接待交際費として、昭和五六年分では八二六九万円余を、同五七年分では一億一四四九円余をそれぞれ公表計上し、他方、検察官は、両年分それぞれについて、年間一〇〇〇万円を超える金額は架空計上であるとして否認しているところ、被告人は、当公判廷において、接待交際費の架空計上があったこと自体は認めるものの、三和病院に勤務していた当直医、日直医や、これらを派遣してくれた大学病院の医師に対する接待交際費として、一か月に三五〇万ないし四〇〇万円は支出しており、年間では四八〇〇万円位の計算になる旨供述し、弁護人も、実際の接待交際費としての支出が年間一〇〇〇万円を上回るとの被告人の供述内容にはそれなりの根拠があると主張する。

被告人、大濱美代志、鷲田操、田中正司及び泉俊光の検察官に対する各供述調書謄本等によれば、被告人と大濱は、判示のほ脱対象年度以前から仕入の架空計上とともに接待交際費の架空計上を中心とした脱税を続けていたものであるが、昭和五五年からは年度の途中で、その一年間の収益の予想を基にどの位の申告所得にするかについて利益調整の打合せを事前に行うようになり、昭和五六年分の所得については、同年七月二四日ころの打合せで、利益調整のため九五〇〇万円の仕入を架空計上するとともに、五〇〇〇万円の接待交際費の架空計上を行うこととし、以後右打合せに基づいた公表経理処理が行われたこと、また昭和五七年分の所得についても、同年九月二七日ころの打合せで、既に二五九二万円余の接待交際費の架空計上処理が行われていることを前提としてなお五〇〇〇万円の接待交際費の架空計上を行うことになり、以後右打合せに基づいた公表経理処理が行われたことが認められるところ、以上のほかにも年度途中の右各打合せの段階までに被告人八木において架空の公給領収証を買い集める等することにより、既に多額の接待交際費の架空計上の処理が行われていたことが認められる。したがって、この点だけをみても接待交際費として支出した金額についての被告人の前記主張と相容れず、したがってその主張に確たる根拠がないことが明らかである。しかも、昭和五六年分に関してみると、検事作成の捜査報告書謄本等によれば、被告人が同年中に接待交際に使用したことがあると主張する飲食店(いわゆる「A店」)の公表額だけでも約一一〇〇万円程度にすぎない。被告人は、公判廷において、接待のために利用した飲食店として「エレガンス」等の九店舗を特に主張するが、飲食店関係者の検察官に対する各供述調書、検事作成の捜査報告書謄本等によれば、右九店舗における公表の飲食代金額から明らかに接待以外に使用したものと認められる金額を除外しただけでもその金額は右九店舗の合計で昭和五六年分が一八八万円余、同五七年分が五九三万円余であると認められるにすぎない(なお、右九店舗のうち「A店」は六店舗だけである。)から、被告人が接待に使用したと主張する店舗のみでは、検察官の認定する接待交際費の金額をとうてい上回ることにはならない。また、被告人は、前記主張の前提として、医師に対する接待の回数は一か月に四回位であり、飲食代金額は、六本木の「瀬里奈」での食事代に一五万円位、銀座のクラブ等での飲食代に一軒当たり三〇万円位掛かるので、一回の接待で七五万ないし一〇〇万円位である旨主張するが、前記捜査報告書謄本等によれば、被告人が接待の際ほぼ必ず使用すると主張する右「瀬里奈」における飲食代金の公表金額は、昭和五六年、同五七年の両年分ともそれぞれ二〇〇万円余にしかすぎず、一回の飲食代金額についても、収税官吏作成の調査書等によれば、公表の飲食代金の領収証等で一回の飲食代金額が二〇万ないし四〇万円のもののうち接待交際での使用ではないことが明らかにものを除外すると、右の点が不明のものを含めても、昭和五六年分は一件(三五万円)、同五七年分は八件(合計二〇九万円)にすぎず、いずれにおいても被告人の主張が過大であることは明らかである。これに対し、医師に対する接待交際費としての支出金額は多めに見積っても昭和五六年分は六〇〇万円、同五七年分は七百数十万円であり、その他の接待交際費を加えてもその総額は、それぞれ年間一〇〇〇万円以内である旨の被告人の捜査段階の供述内容(変遷しているが最終的なもの-昭和六〇年二月一一日付及び同月一四日付各供述調書謄本)は、接待を受けた医師らの供述調書の内容とも符合し、信用できるものと認められるから。弁護人の主張は理由がない。

二  薬品問屋からのリベートについて

弁護人は、エーダイ薬品株式会社以外の薬品問屋からのリベートのうちには、薬品問屋が被告人を実際に接待する代わりに、被告人が飲食した場合に薬品問屋宛の領収書をもらって被告人が飲食代金を支払い、後日これに見合う金額を薬品問屋から受け取ったものが含まれているが、これは、言わば、被告人が薬品問屋から飲食の接待を受けるにあたり、被告人が一時的に立て替えた飲食代金を後日精算してもらっただけのものであり、雑収入ではないと主張する。

しかし、長崎雅彦、鷲田操及び薬品問屋関係者らの検察官に対する各供述調書謄本等によれば、被告人が薬品問屋と取引をするについては、仕入額の一定割合でリベートの支払いを受けることが被告人の取引の条件であったことは明らかであり、エーダイ薬品株式会社からのリベートの支払いと同社以外の薬品問屋からのリベートの支払いは、これを支払うに至る経緯の上で相違するものではなく、実際上、後者のリベートの額も仕入額の一定割合を基準としており、リベートの支払いの見返りとして薬品問屋に渡す領収書についても、その飲食が薬品問屋関係者らと行われていないことはもちろん、実際に被告人が飲食したか否かにも無関係であり、右の形態がとられた理由は、薬品問屋側においてリベートの支払いを接待交際費の支出として処理することにより、被告人側においてリベート収入の事実を秘匿できることにあったことが認められる。以上のとおり、エーダイ薬品株式会社以外の薬品問屋からのリベートも被告人の雑収入に該当することが明らかであり、弁護人の主張は理由がない。

三  今村みつ子に対する給料賃金について

弁護人は、今村みつ子は看護婦として勤務していないときは、看護婦募集の渉外活動などの仕事をしていたものであるから、今村みつ子に対する給料賃金として公表計上したもののうち、病院に勤務していない期間の部分を否認した検察官の処理には疑問があると主張する。

しかし、今村みつ子、鷲田操及び被告人の検察官に対する各供述調書謄本等によれば、今村みつ子は、昭和五六年七月ころ「三和病院」分院を辞めた後は、看護婦が不足した場合に短期間本院、分院に勤務したことはあったもののその余の期間において看護婦募集等病院のための活動を行っていたものとは認められず、それにもかかわらず右期間においても今村みつ子に給料等が支払われていたのは、同女が被告人と愛人関係にあり、後記の被告人のカルテ改ざん作業を手伝っていたことなどによるものと認められるから弁護人の主張は理由がない。

四  診療報酬の水増請求、騙取額について

被告人は、診療報酬の水増請求に係る詐欺の公訴事実を大要において認めるものの、公訴事実記載の水増請求額、騙取額については、抗生物質を実際に使用しているものが一部含まれているので、実際の水増請求額、騙取額は減額されるべきである旨主張し、検察官も、関係証拠等を再検討した結果被告人の主張を一部認める等公訴事実記載の水増請求金額、騙取金額を減額するべきものがあることを論告において認めている。(その詳細については、検察官提出の「診療報酬騙取金額修正一覧表A」、「診療報酬騙取金額修正一覧表B」、「公訴事実の修正について」、「捜査報告書の修正について」、「抗生物質水増量検討メモ(本院分)」、「抗生物質水増量検討メモ(分院分)」各記載のとおりである。)

被告人及び証人渡辺幸恵の当公判廷における各供述、被告人、渡辺幸恵、今村みつ子、米山三郎及び「三和病院」本院、分院の看護婦らの検察官に対する各供述調書、被告人作成の各上申書、押収してあるカルテ綴、指示簿綴等の証拠を精査し、公訴事実記載の水増請求金額、騙取金額算定の基となった検事ら共同作成の捜査報告書(昭和六〇年三月二三日付)の内容を検討した結果、検察官の前記検討結果の内容を大要において肯定することができるが、以下(一)において、検察官の検討結果の内容と認定を異にする部分のうち被告人にとって有利な部分(水増請求金額、騙取金額を減額すべき部分)について略記し(したがって、検察官の検討結果の内容と認定を異にする部分のうち被告人にとって不利な右各金額を増額することになる部分については、そのまま検察官の検討結果の内容に従うこととした。)、(二)において、水増請求金額、騙取金額の算定方法に関する弁護人の主張につき判断を示すこととする。

(一)  検察官の検討結果の内容と認定を異にする部分

(1) 検察官は、公訴事実記載の水増請求金額、騙取金額から関係証拠等を再検討した結果減額すべき金額を減算しているが、右公訴事実記載の水増請求金額、騙取金額算定の基となった検事ら共同作成の捜査報告書には、明らかな計算間違いの結果水増請求金額、騙取金額が過大となっているものがあるので、過大金額分を減算する必要があり、その金額は以下のとおりである。(別紙(五)各一覧表の各月毎に合計して過少となっているものについては考慮しないこととした。)

<省略>

(2) 検察官提出の「抗生物質水増検討メモ(本院分)」及び「抗生物質水増検討メモ(分院分)」の内容について、前記各証拠に基づき検討した結果、金額を減算するのが相当であるものの内容は以下のとおりである。

<省略>

(3) したがって、検察官提出の「公訴事実の修正について」の内容(但し、一覧表(六)の番号3及び7の請求金額及び騙取金額については、違算があるので、これを正したうえ)から更に前記(1)、(2)の金額を一覧表の各月毎に減算すると、別紙(五)一覧表(一)ないし(八)のとおりの水増請求金額、騙取金額となる。

(二)  前掲各証拠によれば、本件において診療報酬の水増請求は以下のとおりの方法で行われたことが認められる。

<1> 毎月の月末にカルテ綴の中から二号用紙(狭義のカルテ、以下「カルテ」という。)を取りはずす。

<2> 新しいカルテに、月末及び月初めの処置として、直前の処置内容と同一のものを鉛筆書きで記載し、右の取りはずした部分につづる。

<3> 取りはずしたカルテに右の鉛筆書きの記載と同一内容の処置をボールペンで記載する。

<4> 取りはずしたカルテに実際には使用していない抗生物質の薬品名と使用グラム数を記載し、あるいは実際に使用した抗生物質薬品の使用グラム数の数字部分を改ざんする。

<5> 右カルテの内容を診療報酬明細書(レセプト)に転記する。

<6> 診療報酬明細書に基き、診療報酬請求書を作成して請求する。

<7> 右カルテの記載と指示簿の記載を一致させるため、抗生物質の薬品名、使用グラム数を指示簿に記載し、又は改ざんする。

そして、昭和五八年ころは、右の<1>ないし<3>の作業は今村みつ子が、<4>の作業は被告人が、いずれも今村の自宅で行い、<7>の作業は渡辺幸恵が同女の自宅で行っていた。

ところで、カルテの右側の処方、手術、処置等の欄に医薬品の品名、使用量等を記載するのは、本来医師であるべきところ、前掲各証拠によれば、三和病院では、本院、分院を問わず看護婦がゴム印を押したり、ボールペンで書いて記載しており、被告人自身が記載することはほとんどなかったと認められる。また、指示簿は、ナースステーションに保管されて、看護婦が処置の都度書き込むものであるが、このため、実際に抗生物質を使用した場合には、その薬品名、使用グラム数が処置の都度書き込まれるはずであり、前記<4>の作業をしたのみでは指示簿との突き合わせにより水増計上の事実が明らかとなるので、被告人は渡辺に依頼して<7>の作業を行わせていたものである。したがって、水増請求金額確定の基となる抗生物質薬品の水増量は、カルテの抗生物質の薬品名が被告人の字で記載されているか否か、又は使用グラム数の数字に改ざんの跡が認められるか否かによって明らかとなると同時に、指示簿の抗生物質の薬品名が渡辺幸恵の字で記載されているか否か、又は使用グラム数の数字に改ざんの跡が認められるか否かによっても明らかとなるはずであり、この見地から捜査段階では、被告人にカルテの記載を検討させ、他方では渡辺に指示簿の記載を検討させて抗生物質薬品の水増量を明らかにしようとしたものである。そして、被告人がカルテを見ながら水増請求分を特定する際には、形式的な記載だけではなく、通常月初めの時期には、尿検査の結果の判明する五日ころまでの間、抗生物質薬品の連用からくる効き目の低下を避けるため、抗生物質薬品を使用しないことを原則としていたこと、また、抗生物質薬品の一回の使用量は通常一グラムであり、時に二グラムを使うことはあっても、それ以上の特に四グラムという量を使用することはまずなかったことなどの実質的な判断も加えられていたことが認められる。このような検討を経た後、被告人と渡辺の判断が食い違う部分については渡辺にカルテと指示簿を基に再度検討させるなどした上で、更にレセプト(診療報酬明細書)に抗生物質の薬品名及びグラム数の記載があるものに限定して抗生物質薬品の水増量を確定し、水増請求金額を算出したものであることが認められる(検事ら共同作成の前掲捜査報告書参照)。

ところで、弁護人は、抗生物質薬品の水増量の確定方法について疑問がある旨主張するが、前記のとおり検察官は、カルテの抗生物質薬品名の記載が被告人の字であるか否か、指示簿の抗生物質薬品名の記載が渡辺の字であるか否か、カルテ及び指示簿(特にカルテ)についてグラム数の数字に顕著な改ざんが認められるか否か等の点を総合考慮し、前二者が肯定されても数字に顕著な改ざんが認められると判断されるものは「全量水増」としては処理しないとしているものであって、カルテの抗生物質薬品名の記載が被告人の字であるか否かについても、被告人及び渡辺の判断のみならず今村みつ子の判断(今村の検察官に対する各供述調書参照)をも加えて検討しているものである。したがって、検察官の処理の中には、カルテの抗生物質薬品名の記載が被告人の字と一応判断されるものについても、数字の改ざんが明日であると判断されるものについては、「全量水増」の疑いはあるが、被告人に有利に「一部水増」としたものも認められるが、弁護人がこれをカルテの抗生物質薬品名の記載が明白に被告人の字であると主張することは、そのグラム数(使用量)をも勘案すると、「全量水増」を主張する趣旨となるのである。

以上のとおり、弁護人があれこれ主張するところは、結局、カルテの抗生物質薬品名の記載が被告人の字であるとしてかえって「全量水増」の処理をすべきとすることになるか、被告人自身が捜査段階の検討においても一グラムの使用を四グラムの使用に見せかけたもので「一部水増」であると判断していたものについて、一部、検察官が「全量水増」の主張を改め、「一部水増」として被告人に有利に処理したにもかかわらず、「全量施行」であるとするものが大部分であって、要するに前記の水増請求の方法、検察官の検討方法についての誤解か証拠の検討が不十分であることに起因するものである。

なお、その他の具体的な主張についてであるが、カルテのページ(頁)の途中で「do」の記載ではなく、具体的な指示の記載があるということは、指示の現実的な変更があったことを意味し、施行したことになる旨の指摘は、問題となっている抗生物質薬品の記載以外の処置等の記載が全く同じ場合にのみ妥当するものであって、異なる場合には施行したことの決定的な根拠とはなり得ない。また、指示簿のつけ足しは渡辺以外の者はしない旨の主張は、分院分については米山三郎が行ったものもあることは証拠上明らかであり(米山三郎の検察官に対する昭和六〇年三月二二日付供述調書参照)、理由がない。さらに、渡辺は既に退院している患者についても改ざんとしているので、その供述が虚偽であることとは明確である旨の主張も、検察官提出の「抗生物質水増量検討メモ(分院分)」における誤記を前提としているものであって、証人渡辺幸恵が当公判廷においてそのように供述していないことは明らかであり、右主張も失当である。

(法令の適用)

一  罰条

判示第一の一、二の各所為につき、いずれも刑法六〇条、所得税法二三八条一、二項、判示第二の一ないし八の各所為につき、いずれも刑法二四六条一項

二  刑種の選択

判示第一の一、二の各罪につき、懲役刑と罰金刑を併科

三  併合罪の処理

刑法四五条前段、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条(刑及び犯情の最も重い判示第二の一別紙(五)一覧表(一)番号6の罪の刑に加重)、罰金刑につき同法四八条一、二項

四  未決勾留日数の算入

刑法二一条

五  労役場留置

刑法一八条

六  訴訟費用

刑事訴訟法一八一条一項本文

(量刑の事情)

被告人は、昭和二七年三月、日本医科大学医学部を卒業後医師国家試験に合格し、旭川日本赤十字病院、ガン研究会付属病院の勤務等を経て、昭和三八年ころ、東京都大田区西糀谷において三和病院(本院)を開設し、以後病院の経営と診療に従事するようになり、昭和四三年ころ、横浜市戸塚区和泉町において、常勤医師の名前を借りて三和病院分院を開設してからは、本院と分院の二つの病院の経営と診療にあたっていたものであるが、昭和五六年分と同五七年分の所得につき、顧問税理士をしていた大濱美代志及び医薬品の卸売業を営んでいた長崎雅彦と共謀の上、医薬品の売上を除外し、架空の医薬品仕入及び接待交際費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、虚偽過少の申告を行い、合計三億七〇〇〇万円の所得税を免れ、また昭和五八年において、診療報酬の不正請求を行い、医療保険の診療報酬支払機関から診療報酬の支払名下に三億四五〇〇万円余を騙取したものである。

所得税法違反の各事実についてみると、ほ脱税額は右のとおり非常に多額であり、ほ脱率も昭和五六年分は四〇パーセントを、同五七年分は五〇パーセントをそれぞれ上回っているのであって、事業内容等からみて高率であると言わざるを得ない。被告人は、三和病院(本院)を開設して間もなくの昭和三八年ころの所得から接待交際費の架空計上を行うなどしていたものであるが、昭和五二年ころから本院及び分院を老人医療専門の病院とした上、昭和五四年には本院を大田区萩中三丁目二九番五号に新築移転し、昭和五六年には分院を増築するなどした結果年毎に所得が増大していた反面、借入金の額も増大していたところ、多額の借入金の返済などをする必要があったことに加え派手な女性関係などに基因した支出も多かったことから高額の税金の支払いを免れたいとの気持ちに駆られ本件各犯行に及んだものと認められる。したがって、脱税の動機として被告人の女性関係の面を過度に強調することは適切でないとしても、その動機において特に斟酌すべき事情があったとは認められない。被告人は、昭和五二年ころから、接待交際費の架空計上に加えて医薬品仕入の架空計上を行っており、昭和五五年分の所得からは、年度の途中で、その一年間の収益の予想を基に、どの位の申告所得にするかについて利益調整の打合せを大濱税理士と行うようになり、その後はこの打合せに基づいた経理処理をする一方、裏付けとなる領収書などの収集に奔走していたものであって、本件も同様の方法て行われており、長期間にわたり計画的に行われてきた脱税の一環とみられ、所得秘匿の内容も、医薬品仕入の架空計上、接待交際費の架空計上、雑収入の除外(医薬品横流しによる売上の除外、薬品問屋からのレベートの除外)など多岐にわたっているのであって悪質である。

また、詐欺の各事実についてみても、被告人は、薬価が高いため効率的に水増ができる抗生物質薬品を対象に診療報酬の不正受給を行ったものであり、昭和五八年二月から同年八月までの期間に限ってのものであるにもかかわらず、前記のとおり騙取金額が非常に多額であることをまず指摘しなければならない。そして、被告人は、前記のとおり、不正受給の事実の発覚を免れるため自らあるいは愛人に手伝わせるなどしてカルテ、指示簿の改ざんを継続的に行っていたもので、甚だ悪質であり、医師としてのモラルを忘れ、利得に走った被告人の本件行為は強く非難されなければならない。(なお、詐欺の各事実についての被害弁償は全くなされていない。)

したがって、財産を処分するなどして判示所得税法違反の対象年度分の本税を納付し、未納となっている重加算税、延滞税についても分割納付を予定していること、所得税法違反の事実で国税局の査察を受けたため、昭和五八年分の所得については脱税することができなかったという事情により、納税額が多額となり、結果的には騙取額の相当部分は利得とならなかったという事情があること、被告人は、査察、捜査を通じ罪責を免れるため種々の弁解をし、公判廷においても、ささいな点についてあれこれ主張することはあったものの、大要において事実を認め、これまでの生活態度を含めて反省していると認められること、そして、健康保険医の資格を返上し、本院及び分院について被告人はその経営、診療に従事していないこと、老人医療に対する被告人の貢献にもみるべきものがあること、前科としては道路交通法違反の罪による罰金刑の前科が一犯あるのみであることなど被告人にとって斟酌すべき事情を十分考慮しても主文の刑に処するのが相当である。

(求刑 懲役六年及び罰金一億二〇〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 田尾健二郎 裁判官 石山容示)

別紙(一)

修正損益計算書

八木昭二

No.1

自 昭和56年1月1日

至 昭和56年12月31日

<省略>

修正損益計算書

八木昭二

No.2

自 昭和56年1月1日

至 昭和56年12月31日

<省略>

別紙(二)

修正損益計算書

八木昭二

No.1

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

<省略>

修正損益計算書

八木昭二

No.2

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

<省略>

別紙(三)

税額計算書

56年分

<省略>

別紙(四)

税額計算書

57年分

<省略>

別紙(五)

一覧表(一)

<省略>

騙取金額合計 一一〇、一六二、一二〇円

一覧表(二)

<省略>

騙取金額合計 七二、二八五、八一七円

一覧表(三)

<省略>

騙取金額合計 二三、九五九、二二〇円

一覧表(四)

<省略>

騙取金額合計 二七、一四九、四二〇円

一覧表(五)

<省略>

騙取金額合計 五五、七二五、三三〇円

一覧表(六)

<省略>

騙取金額合計 五三、四五八、七〇〇円

一覧表(七)

<省略>

騙取金額合計 一、九二二、五四〇円

一覧表(八)

<省略>

騙取金額合計 一、〇七二、八〇〇円

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